出版UD研究会の冒頭で、いつも短く研究会の自己紹介を行うのがメジローのお役目になっておりますが、今回はつぎのような話しをしました。
「この研究会を始めることになった一番のきっかけは、今から8年ほど前の2004年2月に開催された“出版物のアクセシビリティを考えるセミナー”です。 このセミナーの主催は、公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)。 作家や出版社の社員をパネリストに呼び、当時一番の課題だった録音図書や電子図書製作における著作権の壁などについて話し合うという画期的な内容でしたが、じつは私は、約130人ほど集まったフロア参加者のほとんどが視覚障害当事者と図書館関係者、ボランティアばかりであったことが一番気になっていたのです。」 やはり出版関係者へのPRに結びつかなければ意味が無いと考え、2004年秋には、「出版のユニバーサルデザインフォーラム」というイベントを毎日新聞社ホールで開催してみましたが、当時、まだ出版やデザイン、印刷関係者を「ユニバーサルデザイン」というテーマで集めるのは、たいへん苦労したことを覚えています。 その当時、よく「ユニバーサルデザイン」ってなんですかと質問されました。 駅や公共施設などのハードウエアのUDはすでに議論されていましたが、まだ出版や印刷におけるUDはそれほど一般的なテーマではなかったと思います。 なにしろその当時は、パネリストに出版関係者をオファーすることすら容易ではありませんでした。 (某出版社のパネリスト予定者は、会社からのOKが出ず、最終的に断念した) そうした反省から、そのフォーラムのスタッフを務めてくれた仲間たちを中心に、2005年から毎回ゲストスピーカーをお呼びし、ワンテーマで議論しあえるようなスタイルの研究会を定期的にやってみようということで、出版UD研究会がスタートしました。 (当時、建築デザイン関係者による同様のスタイルの研究会があり、そのスタイルをまねしてみました) それから、約7年の間に39回ですから、決して多くはありませんが、いまでは、障害当事者やボランティア、図書館関係者だけがメインではなく、出版・デザイン・印刷・IT関係の人たちに大勢参加いただけるようになり、結果としてとても参加者バランスの良い研究会になっていると感じています。 私が一番気を配ってきた部分について、たまたま今日読んだ湯浅誠さんの本にも、関連する文章があったので、少し引用させていただきます。 「どんな現場も似たようなものでしょうが、生活に困ってしまった人の相談を受ける生活支援の現場は狭い世界です。いつもそうした状態に追い込まれた人たちと付き合っているので、その現実については詳しくなっていきます。しかし、それに携わっていない人たちと交流したり、意見交換する場は少ない。 狭い世界で、濃い密度で接しているから、仲間内では前提とされるものがどんどん増えていって、言わなくてもわかる雰囲気が作られていきます。 ところが、外の人たちにはそのあまりまえと思っていた前提が全然通じない場合があります。狭い世界の仲間内でたくさんのことを前提として共有した頭で外の世界へ働きかけても、なかなか外の人たちに通じる言葉が見つからず、空回りしてしまう。 その場合、得てして「外の世界は無理解だ。ひどい」となるのですが、原因はこちら側にあることも少なくない。自分たちが前提としているものを共有していない人たちと話し合うための言葉をみつけられない、という問題です。いわゆる「蛸壺化」、今風に言えば「ガラパゴス化」の問題です。」 (湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』p10-11) あえて、出版UDの話に引きつけていえば、もともと出版やウェブなどの世界は、ジャーゴンだらけで、専門家だけで構成されている狭い世界であり、一方、特別なニーズをもつ読者の世界も、一人ひとりさまざまなニーズが混在していて、きわめて狭く「なかなか正しく理解されていない」世界。 この両方のもともと外部からはわかりにくい世界を、できるだけ一般の人にもわかりやすいように「見える」化するとともに、相反するテーマ(たとえば、コピープロテクトとアクセシビリティ)に対しては、それぞれの言葉を翻訳しつつ、地道に調整を試みなければ、一歩も前進しない! もちろん、出版UD研究会のレベルでは、まだまだ具体的に調整役を果たすレベルまでは到達しないのですが、せめてお互いの立場を知ってもらおうというところで、継続していく意義を感じているし、とにかく作り手の側も読み手の側も、相手の話すことを聞く姿勢だけは大切にしていくことがとてもだいじなのだと思い、土曜の昼下がりの研究会および、恒例になっている懇親会のお世話役を続けてきました。 といっても、あまり毎月毎月やっていると、マンネリ化もさけられないし、研究会スタッフ(みんな本業のかたわら、ボランタリーにやっている)の負担も結構大きいので、この39回をいったんの区切りとし、最低半年くらいは「冬眠」期間に入りたいと思っております。
by mejiroh
| 2012-09-02 22:03
| 出版UD研究会
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