「水戸岡鋭治の鉄道デザイン展―駅弁から新幹線まで」をやっている水戸芸術館へ行ってきた。
私が水戸岡さんの名前を知ったのは、高松のホテルでたまたま見たローカルニュースだった。香川県と岡山県は同じ「ローカル」として認識されているらしく、その番組では、水戸岡さんが岡山出身ということでの出演のようだった。 番組の中での「デザイナーはユーザーの代弁者」という言葉がとても印象に残り、それから断片的に仕事をウォッチしてきた。 鉄道デザイン展のチラシには、つぎのような文章が掲載されていた。 「JR九州の車両をはじめとする公共交通デザインなど、25年間続けてきた活動を、アイデア・スケッチ、ポスター、椅子や机、車両模型などから紹介します。駅や乗り物などを通じて、子どもたちにこれからの公共デザインに関心をもってもらえるように企画しました」 たしかに、会場にはさまざまな種類の椅子と机がたくさん置かれている。 それらは、色も素材もすべて異なる。しかも、適度にコンパーメントが作られていて、自然と座ってみようという気になる。 来館者が自由に椅子に腰掛けて、会話をしたり、机にさりげなく置かれている本やパース集を開いてみたくなる。 そして、何よりも子どもを意識した展覧会として企画されていることがよくわかった。 映像ブースでは、たまたま「あそぼーい!」が走るまでのメイキング番組が流れていたが、親子が座れる椅子を開発するまでの紆余曲折は、とても興味深かった。 帰りに『幸福な食堂車―九州新幹線のデザイナー水戸岡鋭治の「気」と「志」』一志治夫 プレジデント社を買い、東京に戻る電車の中で一気に読んだ。 (タイトルがよくないので損をしているが、中身はとても読み応えがある) 少し長くなるが、一節を引用しておきたい。 「もちろん椅子もすべてオリジナルである。椅子ひとつつくるのでも、回転台、取っ手、脚の形状、生地、クッションのモケット布地の形状、ビスの指定、アールの角度とひとつひとつのパーツの細かな設計図と図面が必要だった。もちろんドーンデザイン(水戸岡氏のデザイン事務所=引用者注)のデザイナーと作業を分担するにせよ、この膨大な量のパーツを最終的には水戸岡ひとりで決めていくわけだから、時間はいくらあっても足りなかった。 カーペットやカーテン、張地類にしても、普通なら「こんな感じのモノ」とメーカーにオーダーするものを水戸岡は、ひとつひとつ版下をつくってオリジナルのものをつくり出していた。その手間はいかばかりかと思うが、水戸岡自らがデザインすることで、コストは30パーセントほど下がり、他のJRが3色しか使うことのできない色をJR九州では10色以上も使うことができた。 ただ裏を返せば、そこには日本が抱える問題が潜んでいる、と水戸岡は考える。日本ではおうおうにして発注する側がものを考えない。つまり、発注する側が製作メーカー側に考えることとつくることの両方を丸投げしてしまうのである。発注する側が考えさえすれば、ものは安くなるのだ。それはすなわち、日本のエリートが働かず、決定する行為を避けるということでもあった。自己責任をとらないことを優先する教育のため、日本のエリートは決定することから逃げる傾向にある、と水戸岡は見ていた。」(p160-161)
by mejiroh
| 2012-09-16 23:37
| メジローが行く!
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