出版UD研究会でも講演いただいた河野俊寛さんの書き下ろし『読み書き障害のある子どもへのサポートQ&A』です。 以下、本書「おわりに」から引用します。 -- 著者は、特別支援学校で教育相談の仕事をしています。教育相談の対象は、未就学児から高校生までで、学校に行っている子どもたちの多くは、通常学級で教育を受けています。授業中に立ち歩いたり教室から出て行ったりする子、他の子とコミュニケーションのトラブルを起こすことが多い子、突然思いついたことを話し出す子などの、行動上の問題がある子どもたちの相談はたくさんあります。しかし、教室では静かに座っているけれども、文字の読み書きに困難があって学習がスムーズに進まない子どもたちは、「勉強ができないだけ」として相談対象にあがってこないことが少なくありません。 このような状況があるのは、学校の先生が、読み書きに困難があるという状態がどのようなもので、どのように確認し、どのような支援をすればよいかが、わかっていないことが大きな理由の一つではないかと、日々の教育相談の中で学校の先生と話をする中で感じていました。また、それは、先生の勉強不足ではなく、読み書きに困難がある子どもを理解するために必要な情報が不足しているためであることは、著者自身も、何か情報を得ようとして本を渉猟しても、なかなか的確な情報を提供してくれる本に出会うことができない経験から強く感じていました。(略) -- 最近、書店の教育書の棚をみると、「発達障害」や「学習障害」に関する書籍がたくさん出版されていることがわかります。しかし、「読み書き障害(ディスレクシア)」に関する書籍はまだ出版点数が少ないのが現状です。 イラストもたくさん入っていて、読みやすい本づくりを心がけましたので、ぜひ教育関係者やご家族の方をはじめ、学校図書館、公共図書館の関係者にも読んでいただければ幸いです。 なお、1月には氏間和仁編著『見えにくい子どものためのサポートQ&A』も発行予定です。 #
by mejiroh
| 2012-12-03 21:18
| 読書工房の話題
「水戸岡鋭治の鉄道デザイン展―駅弁から新幹線まで」をやっている水戸芸術館へ行ってきた。
私が水戸岡さんの名前を知ったのは、高松のホテルでたまたま見たローカルニュースだった。香川県と岡山県は同じ「ローカル」として認識されているらしく、その番組では、水戸岡さんが岡山出身ということでの出演のようだった。 番組の中での「デザイナーはユーザーの代弁者」という言葉がとても印象に残り、それから断片的に仕事をウォッチしてきた。 鉄道デザイン展のチラシには、つぎのような文章が掲載されていた。 「JR九州の車両をはじめとする公共交通デザインなど、25年間続けてきた活動を、アイデア・スケッチ、ポスター、椅子や机、車両模型などから紹介します。駅や乗り物などを通じて、子どもたちにこれからの公共デザインに関心をもってもらえるように企画しました」 たしかに、会場にはさまざまな種類の椅子と机がたくさん置かれている。 それらは、色も素材もすべて異なる。しかも、適度にコンパーメントが作られていて、自然と座ってみようという気になる。 来館者が自由に椅子に腰掛けて、会話をしたり、机にさりげなく置かれている本やパース集を開いてみたくなる。 そして、何よりも子どもを意識した展覧会として企画されていることがよくわかった。 映像ブースでは、たまたま「あそぼーい!」が走るまでのメイキング番組が流れていたが、親子が座れる椅子を開発するまでの紆余曲折は、とても興味深かった。 帰りに『幸福な食堂車―九州新幹線のデザイナー水戸岡鋭治の「気」と「志」』一志治夫 プレジデント社を買い、東京に戻る電車の中で一気に読んだ。 (タイトルがよくないので損をしているが、中身はとても読み応えがある) 少し長くなるが、一節を引用しておきたい。 「もちろん椅子もすべてオリジナルである。椅子ひとつつくるのでも、回転台、取っ手、脚の形状、生地、クッションのモケット布地の形状、ビスの指定、アールの角度とひとつひとつのパーツの細かな設計図と図面が必要だった。もちろんドーンデザイン(水戸岡氏のデザイン事務所=引用者注)のデザイナーと作業を分担するにせよ、この膨大な量のパーツを最終的には水戸岡ひとりで決めていくわけだから、時間はいくらあっても足りなかった。 カーペットやカーテン、張地類にしても、普通なら「こんな感じのモノ」とメーカーにオーダーするものを水戸岡は、ひとつひとつ版下をつくってオリジナルのものをつくり出していた。その手間はいかばかりかと思うが、水戸岡自らがデザインすることで、コストは30パーセントほど下がり、他のJRが3色しか使うことのできない色をJR九州では10色以上も使うことができた。 ただ裏を返せば、そこには日本が抱える問題が潜んでいる、と水戸岡は考える。日本ではおうおうにして発注する側がものを考えない。つまり、発注する側が製作メーカー側に考えることとつくることの両方を丸投げしてしまうのである。発注する側が考えさえすれば、ものは安くなるのだ。それはすなわち、日本のエリートが働かず、決定する行為を避けるということでもあった。自己責任をとらないことを優先する教育のため、日本のエリートは決定することから逃げる傾向にある、と水戸岡は見ていた。」(p160-161) #
by mejiroh
| 2012-09-16 23:37
| メジローが行く!
出版UD研究会の冒頭で、いつも短く研究会の自己紹介を行うのがメジローのお役目になっておりますが、今回はつぎのような話しをしました。
「この研究会を始めることになった一番のきっかけは、今から8年ほど前の2004年2月に開催された“出版物のアクセシビリティを考えるセミナー”です。 このセミナーの主催は、公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)。 作家や出版社の社員をパネリストに呼び、当時一番の課題だった録音図書や電子図書製作における著作権の壁などについて話し合うという画期的な内容でしたが、じつは私は、約130人ほど集まったフロア参加者のほとんどが視覚障害当事者と図書館関係者、ボランティアばかりであったことが一番気になっていたのです。」 やはり出版関係者へのPRに結びつかなければ意味が無いと考え、2004年秋には、「出版のユニバーサルデザインフォーラム」というイベントを毎日新聞社ホールで開催してみましたが、当時、まだ出版やデザイン、印刷関係者を「ユニバーサルデザイン」というテーマで集めるのは、たいへん苦労したことを覚えています。 その当時、よく「ユニバーサルデザイン」ってなんですかと質問されました。 駅や公共施設などのハードウエアのUDはすでに議論されていましたが、まだ出版や印刷におけるUDはそれほど一般的なテーマではなかったと思います。 なにしろその当時は、パネリストに出版関係者をオファーすることすら容易ではありませんでした。 (某出版社のパネリスト予定者は、会社からのOKが出ず、最終的に断念した) そうした反省から、そのフォーラムのスタッフを務めてくれた仲間たちを中心に、2005年から毎回ゲストスピーカーをお呼びし、ワンテーマで議論しあえるようなスタイルの研究会を定期的にやってみようということで、出版UD研究会がスタートしました。 (当時、建築デザイン関係者による同様のスタイルの研究会があり、そのスタイルをまねしてみました) それから、約7年の間に39回ですから、決して多くはありませんが、いまでは、障害当事者やボランティア、図書館関係者だけがメインではなく、出版・デザイン・印刷・IT関係の人たちに大勢参加いただけるようになり、結果としてとても参加者バランスの良い研究会になっていると感じています。 私が一番気を配ってきた部分について、たまたま今日読んだ湯浅誠さんの本にも、関連する文章があったので、少し引用させていただきます。 「どんな現場も似たようなものでしょうが、生活に困ってしまった人の相談を受ける生活支援の現場は狭い世界です。いつもそうした状態に追い込まれた人たちと付き合っているので、その現実については詳しくなっていきます。しかし、それに携わっていない人たちと交流したり、意見交換する場は少ない。 狭い世界で、濃い密度で接しているから、仲間内では前提とされるものがどんどん増えていって、言わなくてもわかる雰囲気が作られていきます。 ところが、外の人たちにはそのあまりまえと思っていた前提が全然通じない場合があります。狭い世界の仲間内でたくさんのことを前提として共有した頭で外の世界へ働きかけても、なかなか外の人たちに通じる言葉が見つからず、空回りしてしまう。 その場合、得てして「外の世界は無理解だ。ひどい」となるのですが、原因はこちら側にあることも少なくない。自分たちが前提としているものを共有していない人たちと話し合うための言葉をみつけられない、という問題です。いわゆる「蛸壺化」、今風に言えば「ガラパゴス化」の問題です。」 (湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』p10-11) あえて、出版UDの話に引きつけていえば、もともと出版やウェブなどの世界は、ジャーゴンだらけで、専門家だけで構成されている狭い世界であり、一方、特別なニーズをもつ読者の世界も、一人ひとりさまざまなニーズが混在していて、きわめて狭く「なかなか正しく理解されていない」世界。 この両方のもともと外部からはわかりにくい世界を、できるだけ一般の人にもわかりやすいように「見える」化するとともに、相反するテーマ(たとえば、コピープロテクトとアクセシビリティ)に対しては、それぞれの言葉を翻訳しつつ、地道に調整を試みなければ、一歩も前進しない! もちろん、出版UD研究会のレベルでは、まだまだ具体的に調整役を果たすレベルまでは到達しないのですが、せめてお互いの立場を知ってもらおうというところで、継続していく意義を感じているし、とにかく作り手の側も読み手の側も、相手の話すことを聞く姿勢だけは大切にしていくことがとてもだいじなのだと思い、土曜の昼下がりの研究会および、恒例になっている懇親会のお世話役を続けてきました。 といっても、あまり毎月毎月やっていると、マンネリ化もさけられないし、研究会スタッフ(みんな本業のかたわら、ボランタリーにやっている)の負担も結構大きいので、この39回をいったんの区切りとし、最低半年くらいは「冬眠」期間に入りたいと思っております。 #
by mejiroh
| 2012-09-02 22:03
| 出版UD研究会
第39回出版UD研究会
情報アクセシビリティの世界から見た本のアクセシビリティ ゲストスピーカー:浅川智恵子(IBMフェロー) 浅川智恵子さんは、コンピュータ技術者として、1980年代から一貫して情報アクセシビリティの研究に取り組んでこられました。 現在は障がい者だけでなく、高齢者や携帯端末ユーザー、新興国の非識字者などさまざまなユーザーを対象とした研究を継続されています。 今回の出版UD研究会では、ご自身の研究開発の道のりを通して、情報アクセシビリティの技術や考え方がどのように発展してきたか、そして今どこに向かっているのかをお話しいただきます。 また、浅川さんはご自身が全盲の障がい当事者でもありますので、仕事上必読の本をどのような方法で読んでいるのかなど、読書生活についてもご紹介いただきます。 長年、情報アクセシビリティに取り組んできた研究者としての視点と、全盲の読者としての視点の両方から、電子書籍など本の世界のアクセシビリティに対する期待や懸念、提言を語っていただく予定です。 ○日時:2012年9月1日(土)14:00~16:30(受付開始13:30) ○会場:北とぴあ7階・第1研修室 〒114-8503 東京都北区王子1-11-1 JR京浜東北線「王子駅」北口徒歩2分、東京メトロ南北線「王子駅」5番出口より直結、都電荒川線「王子駅前駅」より徒歩5分 http://www.city.kita.tokyo.jp/docs/facility/525/052549.htm http://www.kitabunka.or.jp/kitaku_info/rlink/summary-map ○定員:80名(先着順) ○参加費:1,000円(当日、会場で集めさせていただきます) ≪ゲストスピーカーのプロフィール≫ 浅川智恵子(あさかわ ちえこ) 中学時代にプールでの怪我がもとで失明。1985年に日本IBM入社。 80年代後半に行った点字翻訳システム開発の成果は、点字データをネットワークを介して共有するシステムへと結実し、現在の視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」につながっている。 1990年代には、視覚障害者にウェブ活用の扉を開く「Home Page Reader」を開発。 2000年代には、ウェブ・ページ制作者がアクセシブルなコンテンツを作成・編集できるよう支援するツール「aDesigner」や、マルチメディア・コンテンツにアクセスすることを可能にした音声ブラウザ「aiBrowser」を研究開発。 また、2008年には、インターネット上で一般のユーザーと視覚障害を持ったユーザーが協働してウェブ・ページのアクセシビリティを向上させる「ソーシャル・アクセシビリティー」プロジェクトを立ち上げた。 現在は高齢者の社会参加を目指したシニア・クラウド・プロジェクトを推進している。 これらの功績により、文部科学大臣表彰(2011年)など国内外で受賞多数。 2009年、全世界のIBM技術者の最高職位「IBMフェロー」に日本人女性として初めて就任した。 ■申し込み方法 出版UD研究会へのご参加は、予約制でお願いしております。 参加ご希望の方は、下記メールアドレスに、1:お名前、2:ご職業と(あれば)所属先、3:連絡先(メールアドレスなど)、4:懇親会参加の有無 をご記入のうえ、メールをお送りください。 また、 当日配布する印刷物のテキストデータ事前配布や、最寄駅からの誘導など、必要な配慮をご希望される方はお書き添えください。(とくに配慮を希望される事項がなければ記入されなくて結構です) 会場の都合上、定員は80名としておりますので、受付は先着順とさせていただきます。参加の可否は返信メールにてご連絡いたしますので、必ずご確認のほどお願い申し上げます。(返信に1~2日かかる場合がございますので、ご了承ください) ud39@ud-pub.org ■懇親会について 研究会終了後、会場付近で懇親会を開催いたします。 (17:00~19:00ごろ予定) 懇親会参加ご希望の方は、お申し込みの際、必ず「懇親会参加有」とご記入ください。 当日研究会の受付で懇親会費をお預かりいたします。 (会費は4,000円の予定です。後日、懇親会をお申し込みの方だけに、メールで 会場をお知らせいたしますが、その際、懇親会費の確定金額もお伝えいたします) #
by mejiroh
| 2012-08-25 20:37
| 出版UD研究会
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